ライフハックの原理論(!?)
[無教養書評(ビジネス)]
『超★ライフハック聖典』
今日はこの本についてとりあげよう。
超★ライフハック聖典 〜 迷えるアダルトのための最終☆自己啓発バイブル
- 作者: ココロ社
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2009/11/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ライフハックとはなにか
ライフハックとはなにか。
Wikipediaによると、それは情報処理業界を中心とした「仕事術」のことで、いかに作業を簡便かつ効率よく行うかを主眼とした技術であるという。
それは非常に多岐にわたっており、たとえば、
・ファイルを保存せずにうっかり閉じてしまった!を防止する方法
・USBジャックを差し込むときに裏表を間違えないためのライフハック
といった、PCなどの機器を効率良く使用する方法や、
などのような、主にデジタルガジェットを使用して人生を豊かにする方法、また、
・仕事の休憩タイムの過ごし方
のような仕事の効率を上げるためのちょっとした工夫から、
・シェービングクリームを使って、絨毯のシミ抜きをする方法
といった、日常生活に潜む問題解決にいたるまでカバーする技術を指す。
ビジネス書界でも、このようないわゆる「ライフハック本」は多数出版され、多くのビジネスパーソンたちに読まれている。
たとえば、
ストレスフリーの仕事術―仕事と人生をコントロールする52の法則
- 作者: デビッドアレン,David Allen,田口元
- 出版社/メーカー: 二見書房
- 発売日: 2006/05/18
- メディア: 単行本
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- 作者: 原尻淳一,小山龍介
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2006/07/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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などのようなタスク管理や時間管理を効率良く行うことを指弾する本から、
iPhone情報整理術 ~あなたを情報’’強者’’に変える57の活用法!(デジタル仕事術シリーズ)
- 作者: 堀正岳,佐々木正悟
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2009/10/21
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- 作者: 土橋正,小山龍介
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2009/10/01
- メディア: 単行本
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などのような、デジタルガジェットや文房具を駆使した効率化を紹介するもの、
そして、
情報は1冊のノートにまとめなさい 100円でつくる万能「情報整理ノート」 (Nanaブックス)
- 作者: 奥野宣之
- 出版社/メーカー: ナナ・コーポレート・コミュニケーション
- 発売日: 2008/03/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「結果を出す人」はノートに何を書いているのか (Nanaブックス)
- 作者: 美崎栄一郎
- 出版社/メーカー: ナナ・コーポレート・コミュニケーション
- 発売日: 2009/09/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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などのような、ごく普通の100円ノート等のアナログな情報管理の方法論を紹介するものなど、枚挙にいとまがない。
「気象学的」社会におけるライフハックの前景化
では、何故このような「ライフハック」の思想がこのゼロ年代において前景化してきたのか。
たとえば、小山龍介は、『ライフハックのつくりかた』で、以下のように述べている。
21世紀を迎え、かつて科学が経験したように、「天文学」から「気象学」のビジネスへのパラダイムシフトを、今まさに経験しています。そして実は、このパラダイムシフトが「ライフハック」の登場する土壌を用意したといったら、ちょっと驚きでしょうか。
- 作者: 小山龍介
- 出版社/メーカー: ソフトバンク クリエイティブ
- 発売日: 2007/03/27
- メディア: 単行本
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これはどういうことか。
かつて日本社会は、GDPは一定割合で増え続けていて企業はそのザックリとした予測の中で順調に業績を上げることができたし、終身雇用制度をベースにした日本型経営によって自らの生涯賃金も予測可能であった。つまり、長期予測が可能であった「天文学」の世界観がそのまま日本社会、もっといえばビジネスの世界でも適応できたのだ。
しかし、現代社会はそのような「天文学的」な世界観ではもはや測ることのできない世界になってしまった。もはや明日の予測さえつかない「気象学」の世界観をもたなくてはいけなくなってしまった。
つまり、企業も人材も激しく変動する市場にダイレクトに曝されることとなり、そこにおいてはもはや長期的な予測など不可能に近い。
企業は、常に短期的な業績結果に基づいて株主から評価され、成果主義型の人事制度によって、短期的な業績評価によって処遇される。もはやかつて描くことのできた長期的なライフプランも描きにくくなってしまっている。
もはや社会は「天文学的」な社会から「気象学的」な社会へとシフトしてしまったのだ。
「気象学的」な社会である現代社会は、将来を正確に予測することがほとんど不可能であり、私たちのストレスを増大させている。
この予測困難で不確実な社会をうまくストレスフリーにサヴァイブするためのコツがライフハックと呼ばれるものなのである。
ライフハックとは、不確実な社会を生きる私たちの「不安の思想」なのかもしれない。
ライフハックの原理論!
少々話が硬くなりすぎた。
ザックリと本題に入ることにしよう。
この『超★ライフハック聖典』は、いわばライフハックの原理論と位置づけることができる本だ。非常に平易な文章で書かれてはいるものの、ライフハックの本質的なところを見事に捉えている。
【ライフハックの大原則】
あるライフハックのを実行しないという選択した場合も、次に用意されたライフハックを実行しなければならなくなる。そして後で実行するライフハックは、前に実行するライフハックより効率が低い。
「気象学的」な社会においては、様々な選択肢が目の前に用意され、常に人々は自己決定の場面に直面する(もはや選択を後押しする後ろ盾は存在しないのだ)。その自己決定の場面にライフハックを実行すれば、後で面倒なことにならなくていい。ようするに、リスクをあらかじめ回避することができるのがライフハックなのだ。
人生のリスクを回避して、ハッピーになろう!この本においてはライフハックは非常に明るい思想であるように捉えられている。
この本の著者は、以下の三つのことわざを覚えて実行すれば、それなりに幸せな生活ができるという。
「情けは人のためにならず」→守らないと死んでしまう道徳
「人のふり見てわがふり直せ」→相対的に自分を把握する判断力
「善は急げ」→スピードを上げて取り組むための行動力
そして、この三つを自らの生活のあらゆるシーンに応用できれば、ライフハックの本を利用する必要がないとまで断言する。
読み進めてみると、この三つのことわざをベースに、しかも、この三つをあらゆるシーンに適応させながらも深く考察しているのがわかる。
詳細については、是非買って読んでいただきたいのだが、最終章において、この著者は非常に考えさせられることを言っている。
人生の効率化の果てに訪れるのは、生そのもの。そこでは、どんなに人生の目的をでっちあげても、自分探しの旅をしても、何も見つからない状態になり、ただ見えてくるのは「生きること」そのものなのです。
著者は、ライフハックの最終的な目的は「生きることそのものをエンジョイする境地」に達することだと言っている。
たしかに、ありとあらゆるライフハックを駆使して人生をサヴァイブする。そしてそのライフハックを実行するためのライフハックを駆使しながら、そして、そのまたライフハックを実行するためのライフハックを・・・と無限後退していって、ライフハックのためのライフハックになってしまい、楽しくもなんもない人生になってしまう。
これは、私自信もライフハック関連の本を読んで実際に実行してて思っていたことだ。成功するために人生の目標をたてて、その目標を達成するためのライフハックを編み出して、実行して、問題に直面したらそれを回避するライフハックを駆使して、なーんてやってると、非常に疲れるし、なんのための人生だがよくわからなくなるし、実際にそうなってしまった時も正直あったりするのだ。
なので、「生きることそのものをエンジョイ」して、人生を適当にやり過ごす。この思想をベースに生きていけば、もはや巷にあふれかえるライフハック本など読む必要などないのではないか(とはいいながらも読んでしまう私がいるのだが・・・)。もしかしたらこの思想こそが、最大のライフハックなのかもしれない。
「生きることそのものをエンジョイ」したい人は必読の本だ。